改正民法(2020年4月1日施行)における変更の要点と、法律上の「条件」の種類(停止条件・解除条件)について、分かりやすく解説します。
改正民法での変更点
従来、民法130条は「条件の成就の妨害」を定めていましたが、改正民法においては、同条に2項が追加で新設されました。
条文を引用します。下線部分が変更点です。
条文のタイトルは「条件の成就の妨害等」となり、「等」が追加されました。
改正民法130条の規定内容
法律上の「条件」とは何か
「法律行為の効力の発生または消滅を、将来の不確定な事実にかからせる法律行為の付款」のことで、条件の種類には停止条件と解除条件があります。
停止条件 | 法律行為の効力の「発生」についての条件 →停止条件が成就したときから法律行為の効力が生じる(民法127条1項) 具体例:明日の天気が雨だったら、傘を貸してあげる |
解除条件 | 法律行為の効力の「消滅」についての条件 →解除条件が成就したときから法律行為がその効力を失う(民法127条2項) 具体例:明日の天気が晴れだったら、貸している傘を返してもらう |
「解除条件」の方は「消滅」という意味から直感的にも理解しやすいですが、効力の「発生」にかかる条件が「停止条件」と呼ばれることについては若干イメージしにくいと思います。効力が発生するのを条件が成就するまで「停止」しておくというニュアンスで覚えておくと、理解しやすいかもしれません。
両者を取り違えないように注意してください。
従来から存在した1項について
たとえば、書面で「試験に合格したら、車を買ってあげる」という約束(条件付贈与契約)をした場合を考えてみましょう。
ここでは、車を買ってあげる方を贈与者、買ってもらう方を受贈者と呼びます。
「条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたとき」とは、約束をした後になって贈与者がもったいないと思い翻意して、試験当日に受贈者が受験会場へ決してたどり着けないようにするなどの妨害をし、「合格する」という条件の成就を贈与者の手によって不可能にすることを指します。
この場合、「相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる」、すなわち、受贈者はたとえ受験できなくても「合格する」という条件が成就したものとみなし、贈与者に対して車をプレゼントするよう要求することができます。
民法改正で新設された2項について
同じ「試験に合格したら、車を買ってあげる」という例で、改正民法において新設された2項についても考えてみます。
今度は、「条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたとき」という要件ですが、1項の「不利益を受ける当事者(=贈与者)」と異なり、2項では「利益を受ける当事者(=受贈者)」が行為の主体となっています。
そして、不正にその条件を成就させたときとは、たとえば試験を受ける受贈者が替え玉受験を企てて試験に合格した場合など、「合格する」という条件を受贈者が不正な方法で成就させることを指します。
この場合、「相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる」、すなわち、贈与者はたとえ受贈者が合格したとしても「合格する」という条件が成就しなかったものとみなし、受贈者に対して車をプレゼントすることを拒否することができます。
ポイントは「不正に」という要件で、仮にこの部分がないと受贈者が自力で試験に合格して条件を成就させた場合も含まれることとなり、一生懸命勉強したにもかかわらず車を買ってもらえないことになってしまいますので留意してください。
1項が「条件の成就の妨害」についての規定であるのに対し、2項は「条件の不正な成就」についての規定といえます。
アデランス・アートネイチャーかつら事件
実は2項が新設される以前に、このような場合にどう処理をすべきかについて判断した判例が存在します。今回の改正は、この判例の考えを民法上で明文化したものといえます。
事案の要点だけを簡単に紹介すると、両社が「ある特定の種類のかつらは製造販売しない」「どちらかが違反したら相手方に違約金を支払う」と合意したにもかかわらず、アデランスの関係者が顧客と扮してアートネイチャーに当該特定の種類のかつらの製造を依頼し、これにやむなく応えたアートネイチャーに対してアデランスが合意に違反したことを指摘して違約金の支払いを請求したことが問題となりました。
つまり、「相手方(アートネイチャー)が合意に違反する」という条件が成就することによって違約金の支払いという利益を受けることができるアデランスが、合意の反故を誘発するような不正な方法により、その条件を成就させたのです。
これは平成6年の判例で当時の民法130条に2項はありませんでしたが、最高裁は「条件の成就によって利益を受ける当事者が故意に条件を成就させたときは、民法第130条の類推適用により、相手方は条件が成就していないものとみなすことができる」とほぼ現在の2項の条文通りの判示をし、アートネイチャーは違約金を支払わなくてもよいという判断をしました。