行政機関情報公開法8条 グローマー拒否とは

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(行政機関情報公開法)8条では、行政文書の開示請求に対して「在否応答拒否(グローマー拒否)」と呼ばれる制度が定められています。
内容を理解すると「なるほど」と納得できる制度ですが、条文を読んだだけではイメージしにくいと思いますので、具体例を挙げながら分かりやすく解説したいと思います。

行政文書の開示と不開示情報について

まずは下準備として行政文書の開示について簡単に説明します。

行政機関情報公開法では、開示請求があった場合には原則として行政文書を開示しなければならないとしているものの、個人の権利保護や公益保護の観点から、以下のような場合には例外的に不開示とすることを認めています(同法5条)。

  • 特定の個人を識別することができる(または開示によって個人の権利利益を害するおそれがある)個人に関する情報
  • 法人等(事業を営む個人を含む)に関する一定の情報
  • 国の安全が害されるおそれがある情報
  • 公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報
  • 国の機関や地方公共団体等の相互間における審議、検討または協議に関する一定の情報
  • 国の機関や地方公共団体等の行う事務または事業に関する一定の情報

それぞれ別個の趣旨があって不開示情報とされているものですが、原則開示としながらも意外と例外が多いなという感じがします。

在否応答拒否(グローマー拒否)とは何か

条文の文言

それでは本題に入ります。まず条文を引用します。

行政機関情報公開法8条

開示請求に対し、当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、行政機関の長は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。

特に前半の「行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるとき」という部分がややこしいと思います。

なぜ在否の回答=不開示情報の開示となるのか

開示請求に対して開示がなされないケースとしては、上記の不開示情報①~⑥で挙げたような例外的に不開示とされる場合のほか、そもそも行政機関が開示請求に係る文書を保有していない場合が考えられます。前者の場合にはそれぞれ①~⑥が不開示の理由となり、後者の場合には文書が存在しないことが不開示の理由となります。

ここで、たとえばある個人が、探索的に(かまをかける意図で)、「特定の個人(開示請求者とは別人)のある特定の病院における診療歴の情報が記録された文書」の開示請求をした場合を考えてみます。
このような文書は①の「特定の個人を識別することができる(または開示によって個人の権利利益を害するおそれがある)個人に関する情報」に該当するため、文書が存在する場合であっても不開示となります。しかし、例外的な不開示情報に該当するからという理由で不開示とすると、「このような文書が存在すること」自体は開示請求者に対して明らかになってしまいます。そして、文書が存在するということは現実にその病院で診療等の事実があったことを意味しますので、開示請求者に「当該特定の個人が特定の病院で診療を受けていたこと」まで知られてしまうことになります。

以上のようなケースが、「行政文書の在否の回答」=「不開示情報(個人の権利利益を害するおそれのある個人に関する情報)の開示」に該当する場合といえます。

不都合を回避するために

これでは、同法が個人情報を例外的な不開示情報として定めた趣旨を没却してしまいます。
そこで、このような場合には、文書が実際に存在する場合・存在しない場合のどちらであっても、「当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否する」こととされているのです。文書の存否を回答しないということは、上記の例で仮に診療等の事実があったとしても、「当該特定の個人が特定の病院で診療を受けていたこと」は開示請求者には判明しませんので、不都合を回避することができます。

これが、在否応答拒否(グローマー拒否)と呼ばれるものです。

在否応答拒否(グローマー拒否)の具体例

行政機関の一つである厚生労働省において他にどのような情報が在否応答拒否の対象になると判断されているか、簡単に紹介します。

  • 特定の個人の病歴に関する情報
  • 先端技術に関する特定企業の設備投資計画に関する情報
  • 情報交換の存在を明らかにしない約束で他国等との間で交換された情報
  • 犯罪の内偵捜査に関する情報
  • 買い占めを招く等国民生活に重大な影響を及ぼすおそれのある特定の物質に関する政策決定の検討状況の情報
  • 特定分野に限定しての試験問題の出題予定に関する情報

こちらは、厚生労働省のホームページ「存否に関する情報が不開示情報となることに関する判断基準(法第8条関係)」からの引用です。

がさきほど説明したように不開示情報①(個人情報)に対応する具体例ですが、の各項目も、それぞれ不開示情報②~⑥に対応する具体例として列挙されています。
たとえばは不開示情報⑥の「国の機関や地方公共団体等の行う事務または事業に関する一定の情報」の具体例で、もしも「1か月後に実施される看護師国家試験の試験問題を作成するために使用したある特定の分野に関する参照資料」といった開示請求に対してグローマー拒否の制度がない場合には、そのような資料の存否自体によって「当該特定の分野に関する問題が1か月後の試験に出題されるかどうか」の当てがつくことになっていまい、不都合が生じるといった具合です。

その他の項目についても、なぜ在否応答拒否の対象となるのか頭の中でイメージしながら考えてみるとおもしろいかもしれません。

まとめ

ここでは、行政機関情報公開法8条の「在否応答拒否(グローマー拒否)」について解説しました。
同法に基づく開示請求を行ったにもかかわらず理由も開示されずに拒否されてしまったという方や、これから在否応答拒否の対象となり得るような開示請求を考えている方も、参考にしてみてください。

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